5G本格化に向けた高周波回路用基板の動向

 電子部品・素材メーカを中心に各社が高周波向け回路基板・プリント配線基板の超低伝送損失化に向けた材料・技術開発に力を入れています。 

 その背景としてあるのが、世界各国で商用サービスが開始されている5G(第五世代移動体通信システム)です。

 5Gで伝送信号の搬送波として用いられる電波の周波数帯域は、Sub-6帯と呼ばれる6GHz以下の周波数帯域と、24GHzを超えるミリ波帯(準ミリ波帯も含む)と呼ばれる周波数帯域の2つの大別されますが、現時点ではSub-6帯の利用を中心に5Gの導入が進み、ミリ波の本格利用はもう少し先と言われています。

 しかしながら5Gの大きな特徴の一つとしてこのミリ波の利用にあります。このミリ波帯の利用により5Gで実現しようとする超高速・超多数端末接続・超低遅延通信の世界がやってくると考えられます。

 ただ、ミリ波帯の電波を移動体通信システムでどのように取り扱うべきかの最適解は依然として導かれておらず、その探求が現時点でも続けられています。

 回路基板・プリント配線基板の分野においてもミリ波帯での通信に最適な材料・技術の開発が行われています。

 そこでまず問題になるのが高周波信号の伝送損失の問題です。

 回路基板上の配線で構成される伝送路においては、信号の高周波成分は低周波成分と比較すると大きく減衰し、この特性は伝送損失と呼ばれます。つまり、回路基板・プリント配線基板上では高周波の信号は低周波の信号に比べて劣化しやすく、信号の周波数が高くなるにつれ、それが顕著になるということです。

 伝送損失は要因はいくつか存在しますが、高周波の信号領域では誘電損失と呼ばれる要因が支配的となっていきます。

 誘電損失とは、誘電体に交流電界を加えたとき、誘電体内で発生するエネルギーの損失です。高周波信号の伝搬により交流磁界が発生し、それにより基板材料内で誘電損失が発生します。

 この誘電損失によりどの程度伝送損失が生じるかは、伝送路となる基板の材料に依存します。そしてこの誘電損失の程度を表すパラメータとして用いられるのが誘電正接と呼ばれるものです。この誘電正接の値が低ければ、伝送損失が小さいことを示します。

 また高周波向けの回路基板では信号遅延を低く抑えることも、当然ながら重要となります。この信号遅延量に影響を与えるのが比誘電率です。回路基板の材料の比誘電率も値が小さければ信号遅延を小さく抑えることができるということになります。

 すなわち、誘電正接と比誘電率は、高周波向け回路基板の材料を検討する上での重要となるパラメータの内の2つということになります。

 この2つのパラメータを軸として各種材料を比較した図が以下のものになります。

各種材料と誘電正接と比誘電率の関係

 これら基板材料で特に注目されているのが、フッ素樹脂(PTFE)やLCP(液晶ポリマー)です。従来の基板材料として良く用いられていたガラスエポキシ樹脂(FR-4)やポリイミド樹脂(PI)に比べて誘電正接と比誘電率が他の材料に比べて小さく、高周波向けの回路基板の材料として好適だからです。

 また伝送損失を抑えるためには、吸水性や導体密着性も考慮する必要があります。

 素材の誘電正接の値は吸水量に応じて値が上昇するため吸水性の低い材料が望まれます。

 導体密着性とは、基板材料と導体となる銅箔との密着性のことです。この密着性が低い場合、密着性を向上させるために銅箔表面を粗化させる必要があります。しかし、粗化により銅箔表面に凹凸が生じ、電気抵抗が増大し、信号の伝送損失が大きくなってしまうというデメリットが生じてしまいます。 

 LCPを用いた回路基板事業で現時点で注目を集めているのが村田製作所です。村田製作所が力を入れる樹脂多層基板のメトロサークは2016~2017年頃から米アップルのiPhone向けに供給が開始され、2019年からはアップル以外にも供給を開始しているとのことです。

 LCPの老舗であるクラレも、独自の製膜技術で実現した世界初の液晶ポリマー(LCP)フィルムで着々と事業化を図っています。西条事業所で液晶ポリマーフィルムのベクスターの生産能力を増強する共に、鹿島事業所にて同フィルムを用いた銅張積層板<ベクスター®FCCL>の量産試験設備を導入し、同サンプルの出荷を開始しています

 フッ素樹脂ではAGCが力を入れています。

 AGCは自社が強みを持つフッ素樹脂を活かした銅張積層板(CCL)事業に参入しています。具体的には自社ブランドのフッ素樹脂Fluon+EA-2000の生産能力増強を行うと共に、米国Perk社から銅張積層板(CCL)事業を取得しています。特にリジットCCLに注力をするようです。

 今後のこの分野の展開にも注視をしていきたいと思います。