中華系NANDフラッシュメモリメーカ YMTC

 2015年の7月に中国で公表された「中国製造2025」では中国における半導体の自給率を2025年までに70%まで引き上げることが目標となっており、それに向けて国内半導体企業への大規模な投資と急ピッチでの育成がなされています。

 特に韓国・米国メーカに大きく依存してるDRAMやNANDフラシュメモリメーカの育成が急務とされ、NANDフラッシュメモリのYMTC(Yangtze Memory Technology:長江存儲科技)、DRAMのCXMT(ChangXin Memory Technologies:長鑫存儲技術)とJHICC(Fujian Jinhua Integrated Cicuit:福建省晋華集成電路)の3社に対して、大規模な資金投入が中国中央政府と地方政府により行われてきました。

 3社のうち唯一NANDフラッシュメモリを手掛けるのがYMTCです。今回はYMTCについて少し調べてみました。

 YMTCは中国の半導体企業グループである清華紫光集団の一員であり、武漢を本拠地としています。清華紫光集団が中国の大手半導体メーカーであった武漢新芯集成電路製造(XMC)を2016年に買収して設立したのがYMTCになります。

 YMTCは2019年の9月に64層・256Gb・TLCの3次元NANDフラッシュメモリの量産開始のアナウンスをしていましたが、すでに製品が市場にでていることがカナダのリバースエンジニアリング会社のTechinsightsにより確認されています。

 注目すべき点は、YMTCに採用されている「Xtacking」アーキテクチャです。ウェハ貼り合わせ技術によって3D NANDフラッシュのメモリセルアレイと周辺回路を積層するという技術です。下図はXtackingの概要を示す図で、左下の積層構造が3D NANDフラッシュのメモリセルアレイで、左上が周辺回路で、これらを別々のウエハーで製造し、後にウエハーを張り合わせて最終的な3D NANDフラッシュメモリを実現します。

Xtacking概要:出所(YMTCウェブサイト)

 YMTCはこの技術による3つのメリットを挙げています。

 1つ目は、入出力回路の動作速度を高められること。別ウェハーにすることで、入出力回路などの周辺回路を高速動作可能なCMOSロジックプロセスで製造できるからです。

 2つ目は、単位面積あたりのビット数を高められること。つまり同じビット数であれば面積を小さくできるということです。メモリセルアレイと周辺回路を同じウエハー上に作ると通常は20~30%が周辺回路のために必要だったところを、周辺回路は別チップになるため、空いたスペースにメモリセルアレイが作れるからです。

 3つ目は、開発効率を向上できるということ。メモリセルアレイと周辺回路を独立して開発・製造することができるので、用途に応じて周辺回路とメモリセルアレイの組み合わせを変えることで様々なバリエーションの製品を短TATで製造できるからです。

 この技術でサムスン、キオクシア、マイクロン、SK-Hynixなどの先行のNANDフラッシュメモリメーカとの差別化を図っていくという戦略と思われます。

 ところで、中国半導体企業の弱点として知的財産が手薄ということが良く言われますが、YMTCはどの程度特許を保有しているのでしょうか? 無料の特許検索データベースのThe Lensを用いて調べてみました。出願人をYMTCとその前身のXMCに絞って検索した結果(2020年4月8日時点)がこちらです。

 年別の公開文献数(Publications By Year)のグラフを下に抜粋します。これを見ると2017年から2019年にかけて大きく件数が伸びており、特許ポートフォリオの強化を図っていることが見て取れます。公開文献の大半は中国のようです。あとはポートフォリオ中身がどのようになっているかや、個別の特許の内容も見てみたいところです。それについては別の機会にしたいと思います。

YMTC特許文献公開数の推移

 今回は、以上です。