GF/TSMC訴訟が米中貿易戦争に与える影響

 今年は米中貿易戦争が激化し、5月にトランプ政権は米国製品の輸出禁止対象リスト、いわゆるエンティティリストに中国の通信大手のファーウェイを追加しました。これにより米国原産の貨物や技術をファーウェイへ輸出することが規制(事実上禁止)されました。

 この規制は米国からの直接の輸出のみならず、第三国を介しての再輸出に対しても適用されます(いわゆる域外適用)。また最終輸出品の生産が米国以外の国で行われたとしても、その輸出品に一定の割合以上の米国産の部品や米国由来の技術が組み込まれている場合も再輸出に当たってしまいます。

 通常は輸出品に組み込まれた米国産の部品や米国由来の技術の価値が、金額ベースで輸出品の25%を超えると規制の対象となってしまいます。但し、輸出先によってはその割合が10%という厳しい基準を科すこともできるようです。

 ところで、ファーウェイ(正確には子会社のハイシリコン)の半導体チップは、台湾のTSMCが製造をしています。TSMCの製造する半導体に含まれる米国由来の原材料や技術の割合に如何によっては、TSMCからのファーウェイへのチップ供給もこの規制に該当する可能性があります。但し、TSMCは5月の米国による規制発表の後、 米国由来の技術などの市場価値は製品全体の25%未満であるため、規制対象ではないとの見解を出しています。

 しかしながらここにきて、TSMCからファーウェイへのチップ供給が止まる可能性があるというニュースが出てきています。

The Trump administration is preparing a maximum limit wherein U.S. technology cannot account for more than 10 percent of products supplied to Huawei, Liberty Times reported Wednesday. If the limit is imposed, TSMC products might be affected, the newspaper added.

・・・中略

Of the chips manufactured by TSMC, the 7-nm variety contain only 9 percent U.S. technology or parts, so they would not pose a problem. However, when it comes to the 14-nm semiconductors, their American contents rise to 15 percent.

https://www.taiwannews.com.tw/en/news/3844536

 台湾のメディアTaiwan Newsによると、米国はファーウェイへの輸出規制の対象となる基準を、25%から10%に厳格化する準備をしていることです。そしてTSMCの14nmプロセス製品では米国由来技術の割合が15%となっているため、規制対象となるということのようです。一方7nmプロセス製品については9%と規制の対象から外れると報じています。

 このTaiwan Newsの記事の事実関係の真偽は確認できていないのですが、米国政府として、ファーウェイの勢いを止めるためにTSMCからファーウェイへのチップ供給に対しても規制したいという点は間違いないと思います。

 ところで、この15%や9%という 米国由来技術の割合の根拠についての説明は Taiwan News にはありませんでした。この数値を算出するのはそれほど簡単ではないと思い、どのような根拠があるのか気になって少し考えてみました。

 そこで一つ思い当たることがありました。ここでの米国由来技術には特許ライセンス技術も含まれるのですが、今年の10月末にTSMCは米国ファウンダリ大手の Globalfoundries社(以下、GF)と特許クロスライセンス契約を締結しています。GFからライセンスを受けた特許技術はまさに米国由来技術であり、両者で交わされたライセンス契約の内容に基づけばある程度精度のある数値を出すことはできるのではないかということです。またGFが7nm以細のプロセスから事実上撤退していることを考えると、14nmと7nmで数値に差異がある点とも整合します。

 このTSMCとGFとの契約は GFがTSMCを提訴して2か月強で締結されたのですが、個人的にはなぜGFがTSMCを提訴したのが良く分からずじまいでした。しかし、今回のTaiwan Newsの記事を見て、一企業であるGFによる提訴の目的が「TSMCの製品における米国由来技術の割合の引き上げ」や 「TSMCの製品における米国由来技術の割合の特定」にあるという可能性は通常は考えにくいものの、現米国政権の性質を考えるとその可能性は完全には否定できないとも思ったのです。ただ明確な根拠はないので私の憶測にすぎません。いずれにしてもTSMCからファーウェイへのチップ供給規制に少なからず影響を与えることは間違いないと思います。

 なおTaiwan Newsに関する記事に関しては、TSMCは憶測と仮定に基づく状況ではコメントしないの発表をしているようです。

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