高まるRFフロントエンドの需要

 5G(第五世代移動体通信システム)の普及に向けて、RFフロントエンドの各デバイスや、これらデバイスを複数個同一基板上に実装して一体化したRFフロントエンドモジュールの需要が急速に高まると予想されています。

 仏Yole Developpement社によるとRFフロントエンドの市場規模は2017年から2023年までの成長率は年率平均14%となっていています。

 ところでRFフロントエンドとは何かということですが、これは無線通信を行う装置において、アンテナとベースバンド信号処理部の間の高周波信号の処理を担う部分になります。

 アンテナは言うまでもなく、電波を受信したり、送信したりするものです。ベースバンド信号とは、実際に端末や基地局間で伝送したい信号そのもので、ベースバンド信号処理部とはそのベースバンド信号を処理する機能を担います。

 RFフロントエンドは、アンテナで受信した電波から、その電波に乗せられて運ばれてきたベースバンド信号を抽出する復調処理をしたり、アンテナから外部に送信するためにベースバンド信号を電波に乗せるための変調処理を行います。これらの機能は半導体やその他の電子デバイスで実現されています。

 LTE/LTE-Advanceといった4Gでは マルチバンド対応やキャリアアグリケーション対応のために同時に対応しなければならない電波の周波数帯域の数が増大し、その結果、RFフロントエンドが複雑化しました。

 5Gのネットワークインフラの運用形態は当面の間、4Gと組み合わせて使うノンスタンドアローン(NSA:Non-Standalone)方式が想定されているため、同時に対応しなければならない電波の周波数帯域数はますます増え、その結果、RFフロントエンドに対する要求は更に厳しくなります。

 しかしながら、ベースバンド処理部以降の機能を担うバックエンドの半導体チップはクアルコムをはじめとする海外企業が強く日本の半導体メーカは市場から撤退していますが、このRFフロントエンドの分野では競争力のある日本企業が多く、非常に楽しみな分野でもあります。

 以下のブロック図は一般的なRFフロントエンドのアーキテクチャを示したものになります。

Source : https://www.qualcomm.com/products/rf(accessed on 16 August 2019)

 RFフロントエンドを構成する部品としては、アンテナチューナ、スイッチ、フィルター、デュプレクサー、パワーアンプ、ローノイズアンプなどがあります。これらの個別デバイスが単体で供給されていたり、複数のデバイスがモジュール化されて提供されています。

 主要なプレーヤーとしては、海外勢ではQorvo、Skyworks、Infineon、Qualcomm、Broadcom、NXP、日本勢では、村田製作所、TDK、太陽誘電、新日本無線、京セラといったところでしょうか。

 日本勢では特に村田製作所が強く、フィルターでの高いシェアや独自の樹脂基板を武器とし、パワーアンプやスイッチなどのキーデバイスをM&Aで獲得するなどして、積極的にRFフロントエンド事業を展開しています。

https://www.murata.com/ja-jp/about/newsroom/techmag/metamorphosis20/productsmarket/pamid

 TDKはQualcommとの合弁会社を設立し、RFフロントエンドのモジュール化事業を進めています。

https://www.jp.tdk.com/corp/ja/news_center/press/201601132100.htm

 いずれも5Gに向けたRFフロントエンドのトータルソリューションの提供を目論んでおり、単品部品ビジネスからモジュールビジネスへの飛躍を図るべく、半導体技術を獲得するために、戦略的にM&Aやアライアンスを行っています。

 先日も、基板技術やアンテナ技術に強みを持つフジクラが、IBMからライセンスを受け、ミリ波帯の基地局向けのRF半導体の開発を行うとの発表もありました。

https://eetimes.jp/ee/articles/1908/09/news033.html

 このように無線通信に必要な技術に強みを持つ企業が、積極的にRFフロントエンドの事業に参入する流れは今後も続くのだと思います。

 今回は以上です。

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