閉ざされたチップ供給網 ~更なる対ファーウェイ規制の強化~

 2020年8月17日、米国商務省 産業安全保障局(BIS)は対ファーウェイへの輸出規制措置を更に強化するための米国輸出管理規則(EAR)を改正を発表しました。

 BISはこの5月に直接製品ルール(EAR §736.2(b)(3))を修正することにより対ファーウェイ規則の強化を行ったばかりです。この規制強化は、米国外で製造されたものあっても、ファーウェイ(ハイシリコンなどエンティティリストに含まれる関連企業含む)が開発や製造を行っている場合、その品目の開発や製造に用いられるソフトウェアや装置などに米国由来の技術が含まれている限りは規制対象となるというものでした。

 ファーウェイの半導体事業を担う子会社ハイシリコンはいわゆるファブレス企業(製造工場を持たず自社では半導体チップの企画・開発・設計のみを行い、製造は外部企業に委託する形態を採る企業)であり、自社開発の半導体チップの製造を、台湾の半導体製造専業企業であるTSMCに委託していました。

 しかしながら、5月の規制強化により、ハイシリコンが開発した半導体チップを、TSMCは米国外の拠点においても、米国由来の技術を含む製造装置などを使って製造することができなくなりました。

 これによりファーウェイは半導体チップの主力の供給先を失うことになり、代替の供給源を模索する必要に迫られました。

 代替案の一つとして、中国国内の半導体製造専業企業最大手であるSMIC(中芯国際集成電路製造)から供給をうけるという案も報道で見受けられましたが、SMICも米国由来技術を含む製造装置の使用は避けられず代替案にはなりませんでした。

 そこで、結局は自社開発チップを断念し、サードパーティ開発の半導体チップ供給をうけるという道を検討していた模様で、その供給先として台湾のスマートフォン向けSoCサプライヤー大手のメディアテック(聯発科技股份有限公司)が報道で上がっていました。

 しかしながら、この8月17日発表の規制強化は、このようなサードパーティ開発の半導体チップへのアクセスについても規制をかけ、ファーウェイへの半導体チップ供給網を完全なコントロール下に置くことを目的にしているものと思われます。

 以下は、8月17日発表における、米国商務省長官ウィルバー・ロスのコメントで、明確にその旨を述べいます。

“Huawei and its foreign affiliates have extended their efforts to obtain advanced semiconductors developed or produced from U.S. software and technology in order to fulfill the policy objectives of the Chinese Communist Party,” said Commerce Secretary Wilbur Ross. “As we have restricted its access to U.S. technology, Huawei and its affiliates have worked through third parties to harness U.S. technology in a manner that undermines U.S. national security and foreign policy interests. This multi-pronged action demonstrates our continuing commitment to impede Huawei’s ability to do so.”

https://www.commerce.gov/news/press-releases/2020/08/commerce-department-further-restricts-huawei-access-us-technology-andより引用

 それではEARの規則はどのように修正されたのでしょうか。具体的には§736.2(b)(3)(ⅵ)が以下のように修正されています(修正箇所は下線部)。またエンティティリスト( Supplement No. 4 to part 744)の脚注1(footnote 1) も同様の文言に修正されています。

(vi) Criteria for prohibition relating to parties on Entity List. You may not reexport, export from abroad, or transfer (in-country) without a license or license exception any foreign-produced item controlled under footnote 1 of supplement no. 4 to part 744 (“Entity List”) when there is “knowledge” that:

(A) The foreign-produced item will be incorporated into, or will be used in the “production” or “development” of any “part,” “component,” or “equipment” produced, purchased, or ordered by any entity with a footnote 1 designation in the license requirement column of this supplement; or
(B) Any entity with a footnote 1 designation in the license requirement column of this supplement is a party to any transaction involving the foreign-produced item, e.g., as a “purchaser,” “intermediate consignee,” “ultimate consignee,” or “end-user.”

 これを簡単にまとめると、(A)外国製品がエンティティリスト記載の主体(ファーウェイなど)によって製造、購入、注文される部品や装置の製造や開発に使用されること、又は(B)エンティティリスト記載の主体(ファーウェイなど)が購入者、中間荷受人、最終荷受人、最終使用者など、外国製品に関する取引の当事者であること、が制限の対象となります。

 すなわちファーウェイは自社設計のチップの供給路絶たれたのみならず、米国由来技術を含む如何なる半導体の使用や取引も米国の輸出管理規制下に置かれたことになります。

 ファーウェイにはどのような道が残されているのでしょうか。

 噂レベルではファーウェイの自社ファブを立ち上がげるというニュースも出てきています。しかし米国由来技術を使用せずに半導体製造ラインをつくるということは現実的ではないように思います。できたとしてもファーウェイが必要とする最先端プロセスのラインは到底難しいと思います。

 とりあえずは今後の推移を見守りたいと思います。今回は以上です。