ミリ波通信の必須技術~Massive MIMOとAiP~

 今回は5Gの重要技術、Massive MIMO(マッシブマイモ)と、それに関連する実装技術であるAiP(Antenna in Package:アンテナ・イン・パッケージ)についてです。  

 高速・大容量を謳う5Gの通信速度は、eMBB(enhanced Mobile BroadBand)のシナリオにおいては、下りのピーク時に20Gbps、上りピーク10Gbpsが目標となっています。これは現在普及段階に入っている4G(LTE-Advanced)の目標の通信速度の20倍。これを実現するにはミリ波通信が必須といわれています。

 しかしながら、ミリ波帯の電波はより低い周波数の電波に比べて減衰率が大きく、伝送距離を長くすることが難しくなるというデメリットがあります。またさらに高周波ゆえに直進性が高く、障害物があると電波が容易に遮られてしまうというデメリットもあります。つまりミリ波帯では、送信できるエリアが小さくなり、また電波が届かない場所が生じる可能性が高いということになります。

 この課題を解決するために5GではMassive MIMOと呼ばれる技術が使用されます。これは簡単に言うとMIMOにビームフォーミングという技術を付加したものになります。

 MIMOとは Multiple input Multiple outputの略で、 送信側と受信側の両方で複数のアンテナを用いて、同一周波数帯で同時通信を行い、通信の品質と効率を向上させる技術になります。MIMOは WiFiや4Gですでに実用化されていますが、アンテナ数は入力および出力とも2~4個でした。

 しかしMassive(大規模)からも分かるように、5Gで採用されたMassive MIMOでは基地局では最大256、スマホなどのユーザ端末では最大32個の多数のアンテナ素子が搭載可能となっています。これらのアンテナ素子は平面アレイ状に集中配置されることになります。そしてこれらのアレイ状のアンテナ群を適応的に制御することで、発射する電波の特定方向への指向性を高め、電波の伝送損失を補償するビームフォーミングが行われます。

Massive MIMO/ビームフォーミング
(出典:総務省資料”2020年の5G実現に向けた取り組み”

 Massive MIMOを実現するためには多くの半導体・電子部品が必要となってきます。またそれら部品は、個別の素子ではなく、統合化されたモジュールとして提供されていくことになります。パワーアンプ(PA)やローノイズアンプ(LNA)などの各種RFフロントエンドデバイスを統合したRFフロントエンドモジュールや多数のアンテナ素子をアレイ状に実装したアンテナアレイモジュールなどです。

 また5Gでは、スモールセルと呼ばれるタイプの基地局の需要が拡大すると予想されています。5Gでは一つの基地局がカバーできる通信エリアが狭くなるため、従来のマクロセルと呼ばれる基地局の他に、多くのスモールセルが必要になります。このスモールセルにMassive MIMOが必要となってきます。

5Gにおける基地局構成
(出典:総務省資料”2020年の5G実現に向けた取り組み”

 多数のアンテナ素子を用いるMassive MIMOの実用化に向けた実装技術にも大きな変化があります。ミリ波帯ではアンテナモジュールとRFフロントエンドモジュール間の信号の伝送損失が顕著になるため、なるべく両者を近づけて配置する必要があるためです。

 ところで、アンテナ素子のサイズは、搬送波の波長に比例するので、ミリ波帯では個々のアンテナ素子のサイズを非常に小さくすることができます。そこでアレイ状のアンテナ素子群ををRFフロントエンドモジュールと積層化して一つのパッケージに実装することで、信号の伝送損失を抑えることができるAiP(Antenna in Package)の実用化がすすめられています。

 スマホ端末向けには米国Qualcomm社がすでにミリ波対応したRFフロントエンドとアンテナモジュールを一体したQTM052を製品化しています。大手OSATのAmkorでもAiP実装サービスの提供を開始しているようです。また日本企業では村田製作がすでの製品の量産を発表している、TDKフジクラが技術開発を行っています。

 今後も動向に注目していきます。